*このレポートは、「メディアミックスによるNPO・ボランティア広報事業」(宮崎県社会福祉協議会委託事業) の一部です。
【お話】ホームホスピス宮崎
理事長 市原美穂さん
宮崎にホスピスをでなく、宮崎をホスピスに・・・

◆きっかけは・・・
 ホスピスという言葉に出会ったのは、約20年前、「宮崎・がんを語る会」の柏木哲夫講演会でした。近代ホスピスは20世紀に入り、治療の当てがなく、余命いくばくもない患者の最後の安息に満ちた時間をケアする施設としてイギリスで始まり、ようやく日本でもスタートした時期でした。宮崎にはまだホスピス病棟がなく、その後設置を望む市民運動も起こってきました。
当時はホスピスと言えば病院のような施設というイメージが強かったのですが、施設であろうと自宅であろうと、その人が居心地よく安心して過ごせる場所であれば構わないのではと思いました。
皆やっぱり最期は自分が生きてきた我が家で死にたいと望んでいると、平成9年在宅ホスピス協会(本部・東京)宮崎支部を立ち上げ、医者や看護師さん、ホスピスに関心のある市民の方々で勉強会をスタートしました。と同時に在宅で過ごす患者さん、ご家族ができるだけ安心して過ごせるようにボランティア活動を始めました。
活動をしていく中で、在宅ホスピスをバックアップする病棟があったらいいねと、翌年の平成10年に宮崎市議会と宮崎市郡医師会に「緩和ケア病棟及び在宅ホスピス支援センター設置の要望書」を提出しました。会の名前も、在宅ホスピス教会宮崎支部から、「ハウス」というのは建物、でも建物じゃないよね、「ホーム」というのはアットホームとかという言葉もあるし、精神的なよりどころ的な意味合いもあるよね、ということで、名称を「ホームホスピス宮崎」としました。それから2年後の平成12年4月NPO法人格を取得しました。
◆宮崎の街をホスピスに
かあさんの家
 
かあさんの家(内部)
 
ボランティア養成講座
 
家族が企画したホームコンサート
 
園芸ボランティア
 
患者サロン(よろず相談室)

宮崎にホスピスをでなく、宮崎をホスピスに・・というのが会をスタートした時からの合言葉です。ホスピスの語源は、ホスピタル、ホテル、ホステスと一緒で、ホスピタリティ、おもてなしですから、宮崎の街のどこでも、誰にでもホスピタリティがあれば、施設だってお家だって皆安心なわけです。
人のネットワークが宮崎の街中に張り巡らせることができれば、自分が全てを詳しく知っている必要はないんですね。困ったことがあれば、あそこに相談してみようとか、助っ人を頼める顔が浮かぶということが宮崎にホスピスをということなのかもしれません。

◆「かあさんの家」の活動を通して
市民団体やNPOは社会が抱える課題とニーズがあって、それを満たすために自然発生的に人が集まって解決していこうと民間で動き出すための組織づくりだとも思います。医療保険制度や介護保険制度の狭間でサービスを受けられないということも起こってきました。例えばホスピスは癌とエイズに限られるし、グループホームは認知症で介護度や年齢に制限があります。認知症で癌が発症した場合、ご家族や本人の意向で積極的な治療はしない時は退院になるし、介護施設は癌や重篤な病気があると、受け入れはなかなか困難です。家で死にたいと願っても、1人暮らしだったり、介護力が弱い場合は、自宅に帰ることも出来ません。家で看取れない人をどこで看るのか、その受け皿を作ろうと民家を借りて始めたのが、「かあさんの家」です。
初期投資を抑えるために建物は建てず、民家を借りて現在三軒運営しています。家だけでなくお皿からテレビや洗濯機などそっくり家財道具ごと借り、自宅にいるように暮らせるようにして、1軒当たり5名の方々が入居しています。
ですから「かあさんの家」はあくまで「在宅」の位置づけです。家族だけではケアができないために、ケアを担当するスタッフが住み込みで働いていると言う感じです。考え方は一人の人を見るのに住み込みだと24時間で人件費だけで月に5、60万円かかってしまいますが、それを5人の人が集まってヘルパーを雇用すれば、一人当たり10万円ちょっとになります。そして一般の在宅要介護者と同じように、各入居者の状態によって介護保険のサービスを利用し、ここからデイに通ったり、定期的な往診や訪問看護を受けるという形態をとっています。
同じような規模の認知症型グループホームは9名が1つの単位になっています。実際に「かあさんの家」を運営してみて採算ベースにのるのは、やはり7名から9名の入居者になるのかなと思います。しかし、一軒あたり5名だからこそできるケアがあります。
この人数だとスタッフともども擬似家族になれるのです。普通の民家なので、どこに誰がいるかということが台所から見渡せるし、気配が感じられます。一般の家庭では、お母さんが家事をしながら合間に子供の世話をし、病気になれば看病もする・・・と言う感じですね。部屋で音がしたら、どうしたのって飛んでいけるけど、みんな個室で寝ているとナースコールを押さないと分からないんですね。しかも末期の人や認知症の人はナースコールを押せません。そうなると、終末期まで、看取りまでケアをするには特別に人の手配が要ります。夜勤者は、ふすまの向こうに息づかいを聞いています。利用者の人数が5名から倍の9名の数になると果たしてこれができるだろうかと言います。食べる、排泄する、着替える、お風呂にはいる、そういった普通の生活が出来るように援助することを毎日続けて、ともに過ごす時間が重なって、入居者同士もスタッフも共に擬似家族となっていくのだと思っています。
また、不穏状態だから、問題行動があるから危険を避けるために身体拘束をせざるを得ないという状況をきく事があります。しかし、問題行動を起こすのはなぜ・・とその人の立場になって考えてみると、なにかそこには不穏状態になる原因があるように思えるのです。その不安がどこから来たのか、そこにきちんと着目してケアすると収まることが多いですね。そういうケアがちゃんとできる為には、今の制度での人数では多すぎると思います。せいぜい5〜6名で採算が取れるような制度にするべきだと思います。
本来ならばこのような事業は社会的な責任を負った仕事だと私は考えますので、行政が制度化して行うことでしょう。しかし制度になるとどうしても枠が設けられ、それではどんな状態の人でも受け入れようという自由度は失われます。ですから、NPOなどが、あまり利益が上がらないけれど社会が必要とする事業を行っているところに、それを応援する何らかの資金が回ってくる社会的な仕組みが出来ないものかと考えます。

◆なじみの地域で最期まで過ごすためのサポートを
現在は「かあさんの家」が3軒とケアサロンが1軒。ケアサロン恒久は介護保険適用外の方々で、1人暮らしの方々が集います。要介護から要支援になり介護保険のサービスが使えなくなったり、一人では食事がおろそかになっている高齢者が、昔あった「縁側」のように気軽に立ち寄ってお茶でも・・という居場所作りです。これも非採算部門なので、お料理を作りに来てくださる人は皆ボランティアです。ご近所に遊びにいって、お食事を一緒に頂いてというような感覚で、実際はお料理の実費代を頂いているに過ぎないのが現状です。ボランティアに来ている方が、お年寄りから頂くものもたくさんあります。このような居場所があちこちにできると、きっと地域で暮らし続けることができ、ひいては介護保険費用の削減にもつながると思います。
 また、最期まで人生を生きて抜くために必要なサポートとして医療だけでなく、暮らしを支えるための介護福祉の支援も重要です。そのために気軽に相談でき、悩みを吐露できるサロンとして「患者サロン」・患者家族のためのよろず相談室を平成20年8月に開設しました。困った時に相談できる場所があり、そして適切な医療や介護施設などへ繋いでもらえると、先を見通すことができます。それが不安の解消になり、病があってもそれとともに生きていけるのだと思います。
その他に、傾聴ボランティアとしての「宮崎聞き書き隊の活動」、医療情報を提供する「患者らいぶらり」、「医師会病院緩和ケア病棟の庭の園芸をボランティア」、「大切な人を亡くした方の集い」などのボランティア活動を行っています。

◆ホスピスは人づくりから
 「人は産まれて、育ち、老いて病気になり、命の限りをいつか必ず迎える」という自然で当たり前の事実を受け入れていかなければ穏やかに暮らすことは出来ないのだと思います。一人ひとりが自分のからだの主人公で、自分の人生の終わりを迎えたときの過ごし方等を元気なうちに学ぶことは、今の生き方を確かなものにしていくことにつながります。
また、ホスピスケアをする人のスキルアップも今求められています。ホスピスは人だと、設立当初から、人材養成事業は大きな活動の柱です。市民啓発として「ホスピスケア市民講演会」「ホスピスボランティア養成講座」「ケアする人のためのスキルアップ講座」などを毎年継続して開講しています。

◆必要なお金をまわす仕組みを
NPO法人は経済的基盤が弱いというのが一番の課題です。色々な事業を行っていく上で会員の方の会費、寄付、行政などの助成金などでなんとか運営していますが、今からの社会では、必要なところに必要なお金を回していく仕組みができないかなと思っています。
日本社会においては寄付という習慣はあまりないのですが、お金をそういう様な使い方をしたり、社会全体で考えていく上で、本当に社会的に意義があるNPOみたいなところに寄付してもらうと、それを有効に生かして、みんなが安心して暮らしていける街づくりに活用していけるのではないかと思います。

〜お問い合わせ・連絡先〜

 NPO法人 ホームホスピス宮崎
 理事長 市原美穂
 住所 880-0913 宮崎市恒久2丁目19-6
 会員数 138名(正会員、賛助会員、法人会員)
 電話 0985-53-6056
 FAX 0985-53-6054
 URL http://www.npo-hhm.jp

 「患者サロン」患者・家族のためのよろず相談室
 専用電話 0985-72-8787
 FAX 0985-53-6054
 URL http://www.npo-hhm.jp/tc-salon/


 
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